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STORY

BLISS STORY

老舗金属加工メーカーが生み出した新時代の薪ストーブ

薪ストーブといえば、室内に据え置き“暖”を取るものだ。だが、山や森、キャンプサイトに持ち出せたら、ストーブライフの楽しさはグンと広がることだろう。その可能性を現実のものとしたのが、FIREGTAPHIXのBLISS-SPだ。2020年に誕生して以来、そのスペックは、据え置き型の薪ストーブにも負けないと、評判を呼んでいる。

その理由は「オーロラの炎」だ。薪ストーブの最大の魅力の一つは、炎を楽しむこと。薪ストーブファンは、炎の美しさを讃える時、極地の空で神秘的にゆらめく光にたとえる。「オーロラの炎」を現出させるのは、据え置き型でも容易ではない。燃焼温度と空気の吸気量の条件が整って、初めて生まれるからだ。そのためには綿密に計算された複雑な燃焼システムが必要となる。軽量でも60キロの据え置き型のストーブ。それをわずか17キロのBLISS-SPが実現しているのだ。

BLISS-SPの開発メンバー。(右から)寿産業社長・布田昭人、企画開発部・菱田聡、同・三宅茂樹
BLISS-SPの開発メンバー。(右から)寿産業社長・布田昭人、企画開発部・菱田聡、同・三宅茂樹

BLISS-SPを開発したのは、株式会社 寿産業という精密板金・金属加工会社だ。神奈川県秦野市に本社工場を構え、半世紀以上の歴史を持つ。熟練したクラフトマンの匠と先端設備をいかした、自社工場での一貫生産が強みだ。自動車メーカーや電気メーカーなど大手企業からも、その技術力を高く評価されている。

金属加工会社が、なぜ薪ストーブを。しかも、これまでの常識を打ち破る革新的な薪ストーブを。そこには3人の男達の情熱と思いがある。2019年冬、社長の布田昭人は、工場の片隅でブラウン管テレビに似た鉄製の器具を目にする。企画開発部の菱田聡と三宅茂樹が、手がけていた薪ストーブだった。菱田も三宅も根っからのキャンプ好き。アウトドアシーンで、薪ストーブで使いたい。と、個人的な目的で作っていたのだ。

「最もこだわったのはデザイン。皆さんに、ほめていただいき、ありがたいです。高価なものなので、メインテナンスや修 理もしっかりしますので、末長く愛用していただければ」(布田)
「最もこだわったのはデザイン。皆さんに、ほめていただいき、ありがたいです。高価なものなので、メインテナンスや修 理もしっかりしますので、末長く愛用していただければ」(布田)

過去、パートナー企業である鎌倉の老舗薪ストーブメーカー「ノーザンライトエナジー」の製品受注をしたこともあり、薪ストーブ作りの経ノウハウはある。だが、それは据え置き型のストーブ。持ち運びできる小型の薪ストーブの製作経験はゼロ。だが、二人が薪ストーブを製作しているのを目にした布田は、その完成度の高さに驚く。「これは将来的に、自社ブランドになるのではないか」と、直感した。

この直感は、すぐに現実のものとなる。2020年になり、コロナ禍で会社の経済活動は停滞。新規のプロジェクトを立ち上げる必要に迫られた。そこで布田は二人の薪ストーブを会社の正式なプロジェクトとして発足させたのだ。「自分達の仕事は、お客さまの依頼通りに作ることなので、『もっとこうしたらいいのにな』と思うことも少なくありません。自分達が考えて作ったものが商品化されることは、うれしかったですね」と三宅。「一から企画して作ることは初めてだったので、とても楽しみでした」と菱田。

「同業者の方から、『自分のところの薪ストーブより、美しい炎ですね』とほめていただけたのが、うれしかったです。新しいモデルの設計も楽しみです」(菱田)
「同業者の方から、『自分のところの薪ストーブより、美しい炎ですね』とほめていただけたのが、うれしかったです。新しいモデルの設計も楽しみです」(菱田)

だが、商品化までのタイムリミットは、冬のシーズンを迎えるまで。わずか半年ほどの時間しかない。だが、プレッシャーよりもやる気に火をついたと語る菱田と三宅。二人は急ピッチで試作を重ねていく。菱田が設計と製図を担当、三宅がそれを形にする。試作品を作り、トライ・アンド・エラーを繰り返す。試作過程でもっとも苦労したのが、「燃焼」だ。空気の流れは、目で見てもわからない。実際に、火をつけて燃やして試験する必要がある。薪に上手く風が当たるか、火が上手く上がるか、最後まで燃え尽きるか……。実に根気のいる作業だ。

「2台目でかなりよくなったんですが、よいものができると逆に欲が出てしまい、『こうしたら、もっとよくなるんじゃないか』と積み重ねてしまって……」と三宅。最終的に、試作機は6台を数えるまでに。開発は順調に進み性能はアップしていったが、二人が見落としていたのが商品としての魅力だった。「作る側としては、性能だけを追いかけてしまうんです」と三宅。結果、「一番初めに作ったのは本当にもう電子レンジみたいな、味も素っ気もないような箱だったんです」と、菱田は振り返る。

「自分達が企画して商品化したのは、今回が初めてだったので、とても楽しく物作りができました。早くキャンプ場で使ってみたいですね」(三宅)
「自分達が企画して商品化したのは、今回が初めてだったので、とても楽しく物作りができました。早くキャンプ場で使ってみたいですね」(三宅)

薪ストーブファンの所有欲を満たす、魅力あるストーブにするためには。布田が二人にアドバイスしたのが「デザイン」だった。「デザインは本当に大事なんです。そこは妥協できない」と布田。布田が二人に要求したデザインのこだわりは細部にまで及んだ。そのために、設計を変更することになり、更なる手間も時間もかかった。だが、菱田、三宅ともに「商品になっていく過程がとても楽しかった」と口をそろえる。寿産業の社風である「これでいいということは決してない」という精神の表れだろう。

記念すべき試作1号機。経験なしでのチャレンジだったが、皆、物作りが好きなだけあって完成度は高かった。試作を6回重ねて、BLISS-SPが完成した
記念すべき試作1号機。経験なしでのチャレンジだったが、皆、物作りが好きなだけあって完成度は高かった。試作を6回重ねて、BLISS-SPが完成した

「うん」。誰からともなく、感嘆の声が漏れた。3人が思い描いた「オーロラの炎」が目前で生まれたのだ。これなら、燃焼性能、デザインともに、自信を持ってユーザーに提供できる。その炎の美しさからインスピレーションを受けた布田は、ブランド名をFIREGRAHIXと決めた。この炎を楽しむのはきっと至福の時間だろう。そこで、英語で至福を意味する「BLISS」と、薪ストーブを名付けた。

プロジェクトがひと段落して、菱田はBLISS-SPを持ってキャンプ場に足を運んだ。「周りのキャンパーの注目がすごくて。初めは遠巻きに見ていたのが、段々近付いて来て、『いいね、こういうの』って」。開発者の努力が実った瞬間だ。だが、BLISS-SPに甘んじることなく、既に新しいモデルの開発にも着手している。3人の情熱が続く限り、BLISSの炎が消えることはないだろう。